序章と言う名の舞台設定。
───Dark Wing───
その古びた雑居ビルは、繁華街から一本はずれた裏通りにあった。
短い階段を数段下りた先にある小さな踊り場。黒地に白で「DarkWing」と書かれたマグネットプレートが貼られた扉と、その右隣には「J&M事務所」と書かれたポップな手作りボードが掛けられた扉がある。
DarkWingと書かれた方を開ければ、カウンターに椅子が八脚と、テーブル席は四人掛けがふたつだけのバー。こちらは俺の店だ。その隣は便利屋と名乗る事務所になっている。
入り口は別だが、二階の居住部分はドア一枚で繋がっていてまるで二世帯住宅なのだが、変則的な作りなのはバブル期のお洒落を気取ったデザインの名残とも、あとから増築を重ねたからだとも聞いている。
さてその便利屋。
リーダーの橘雅巳は黒髪ショートの女の子にも見えるが、本人は名前も含めてそこがコンプレックス。
もうひとりは金髪碧眼、そこそこガタイもいい、いかにもな脳筋タイプの野田川ジョウ。一見するとアメリカンだが、中味はどこにでもいる日本人と変わらない。
───J&M事務所───
ふたりの頭文字を取ってのネーミングだ。
通称、じゃむ。
JAMでもジャムでもなく、ひらがなで「じゃむ」なのが、雅巳の拘りのようで、うちのプレートもひらがなにしたいらしい。
ともあれ俺とこのふたりは、腐れ縁的な、運命共同体みたいな状態だ。
そして以前はこいつらがトラブルメーカーだったんだが、最近は、そうばかりでもなくなってきた。
日常が日常ではなくなってきたからだろう。
妖怪、幽霊、オカルト系だけじゃなく、能力者、人外、獣人、そういった存在も含めた異種族が一部で認知されはじめたからであった。
そしてそれは、俺、風真翔にとっても他人事ではなかった。